こんにちは。
junonoです。
今回はエリートが通うパリ国立高等鉱業学校内にある、鉱物博物館を紹介します。
フランスの鉱業史と深く結びついた歴史ある学校の、世界最大級の貴重な鉱物コレクション。
250年かけて集められた鉱物10万点のうち、4,000点以上が展示されているとのことです。
たくさんの美しいファインミネラルや、光、熱、水で変化する興味深いミネラルも展示されていました。
それでは、まず学校と博物館についてお話ししますね。
パリ国立高等鉱業学校と鉱物博物館の歴史
パリ国立高等鉱業学校の公式サイトによると、フランスでは中世からずっと鉱山技術の発展が停滞して、環境破壊が深刻な時代もあったらしいです。
しかし、1744年の鉱山関連の勅令を契機に、状況は好転。
鉱山の探査や開発に関する研究や報告が活発になって、知的環境が大きく改善。
鉱業教育のための課税制度もできて、専門教育のための資金が確保されるようになったとのことです。
1778年、鉱物学者サージュは造幣局の大広間に自分の豪華な鉱物コレクションを展示。
公共の鉱物学・冶金学校を設立しました。
当初は上流階級向けの華やかな講義が中心でしたが、これが後の鉱業学校の礎となったそうです。
サージュの取り組みに触発されて、1783年にルイ16世は王立鉱業学校を設立。
鉱業の研究・発展、そして専門家の育成を目的としたそうです。
時を経て、現在はパリ国立高等鉱業学校として発展。
今やフランスにおける最高峰の理系グランゼコールの一つとなっています。
ちなみに、グランゼコールとは、フランス独自のエリート養成機関で、主に高度な専門知識を学ぶための教育機関。
修士号を取得することが可能で、小規模で入学難易度が非常に高いです。
フランスは学歴社会なので、企業の幹部や政府の高官の多くはグランゼコール出身者です。
鉱物博物館のエントランス
豪華絢爛なルクセンブルグ宮殿があるルクセンブルグ公園。
パリ国立高等鉱業学校の校舎は、その公園に隣接する一等地にありました。
校舎に入ると閑散としていて、鉱物博物館はわかりにくい上階にあって迷子に…
ようやく出会った学生に案内をしていただいて、なんとかたどり着きました。
校内の廊下や階段はどこも白い壁と床が続いていましたが、ここに来ると突然、色鮮やかで優雅な別世界が出現。
天井や壁には、アルプスの山や自然の光景などを描いたフレスコ画と石版が施されていました。
コツコツと石階段を上がっていくと、そこには大きなマカライトの原石やアメジストのジオードが。
そして、壁上部には木目のようにも見えるジオードの石板らしきものが、スライスをした順番に張り付けてあります。
ジオードの模様の微妙な変化を楽しめました。
これから鉱物ワールドへ入っていく感満載で、テンションが上がります。
ジオードが何かわからない場合は、こちらの記事をご覧くださいね。
鉱物博物館の展示室
鉱物博物館のガラスドアは閉まっていたので、呼び鈴を鳴らします。
少しすると、奥から手提げ金庫を持った若い女性が奥の部屋から出てきて「いらっしゃい」と扉を開けて歓迎してくれました。
入場料を支払うと「ご質問はどうぞご遠慮なく、お声がけくださいね」と言って女性はまた奥の部屋へ。
受付カウンターもなく、監視員もいないので、鉱物研究所の標本室に「お邪魔します」という雰囲気です。
わあ、きれい!
玄関ホールには、大きめのカラフルなファインミネラルが飾り棚にズラリ。
かなり美しく、見ごたえのあるコレクションです。
公式サイトによると、鉱物博物館の鉱物コレクションは世界最大級。
250年にわたって集められた10万点のうち、4,000点以上を展示しているとのこと。
同サイト別ページでは3,500種25,000サンプルと掲載されていました。
どちらにしても、多くのコレクションがあるということですね。
展示室は奥までずっと続いていて、ファインミネラルと言っていいコレクションも多いです。
鉱物の形成過程、採掘技術、調査研究の機器などの展示もありました。
展示ケースは素朴な木製フレーム。
いかにも標本を展示してあるといった雰囲気です。
静寂の中、木の床を歩くと「ギシギシ」「ミシミシ」という音が響き、視覚の世界に歴史を感じさせる新たな五感が加わっていました。
魅せられたミネラルコレクション
個人的に魅せられたコレクションをピックアップしました。
有名な鉱物やきれいなミネラルがたくさんあって、選ぶのにかなり迷いました。
クンツァイト。
グラデーションがまるで燃える炎のよう。
ずっとずっと見ていたいです。
薄紫色を多くみかけますが、鮮やかなものもあるのですね。
左上はアラゴナイト。
おいしそうな揚げ麺みたい。
人脈の石と言われていて、この絡み合う形状だと、より多くの方々とご縁がありそうです。
その真下は、日本が誇るスティブナイト(輝安鉱)。
眩しい!
「日本刀のような美しさ」と海外の有識者の間で絶賛されているようです。
特に美しい結晶が出ていた、愛媛県の市之川鉱山からのもの(1957年に閉山)。
大きくて、輝いていて、調和のある優美な形状。
かなり希少なサンプルではないでしょうか。
フブネライト、クオーツ、フローライトの3つのミネラルが融合した、美しいカラーと形状。
まさに自然のアートです。
おしゃれな香水瓶みたい。
光・熱・水で変化するミネラル
先ほどとは別の男性スタッフの方に、少しお話を伺いました。
学芸員というよりは研究員で、とても博識な方。
質問に対して親切丁寧にお答えくださって、その他いろいろなミネラルの特徴についても教えてくださいました。
ところで、光に当たって色褪せをするミネラルがあるのはご存じですか?
ディスプレイの一角に蓋カバーがあるものがあって、そこに光に弱い石がまとめて展示されていました。
たとえばこちらの黄色のオーピメント(雄黄/石黄)もそのひとつ。
光に弱く、毒性があるにもかかわらず、ダイヤモンドよりも屈折率が高いそうで、キラキラと美しく輝いています。
儚なく美しく毒がある。
大切にそっと見守ってあげたい。
そんな思いのミネラルコレクターに人気があるようです。
ですが、オーピメントが光に当たり続けると、色が抜けてこうなってしまうとのこと。
ビフォーアフターのギャップが激しいです。
タンザナイト。
タンザニアにのみ埋蔵されている、かなりレアな石。
自然の色は淡い灰・緑・茶色系なのに、熱加工をすると紫・青色に。
それも熱加工の仕方によって、色が微妙に変わるそうです。
不思議ですね。
ハライト。岩塩。
ブルーやブラウンのグラデーションが、とてもきれい。
透明やピンクのヒマラヤ岩塩はみかけますが、こんな色もあったのですね。
頑丈な石に見えますが、塩なので食べれますし、水や高湿気で溶けてしまうのだそうです。
とても勉強になりました。
最後に最近寄贈されたコレクションのセクションへ。
長年かけて集めたのかと思われる小ぶりのファインミネラルが、ズラリと並んでいました。
かなり繊細な造形で管理が大変そうなものが、よい状態で保存されています。
元の持ち主が心から大切にしていたように感じました。
鉱物を愛する人々がつくり、支えているパリ国立高等鉱業学校の鉱物博物館。
ミネラルと知と愛に満ちた、癒される空間でした。
「素晴らしいコレクションでした。ありがとうございます」
博物館を後にする際、誰もいない静かな出入口の前で心の中でつぶやきます。
まるで知り合いの先輩がいる標本室を訪れて、温かい思い出ができた気分でした。
それではまた、次回に。