こんにちは。
junonoです。

今回は半貴石を主に使った宝石のモザイク技法「ピエトレドゥーレ」についてお話ししたいと思います。

フィレンツェ製のテーブルとプラハ製の風景画、そしてアブダビのシェイク・ザーイド・グランド・モスクのモザイク。

どれも、熟練の宝石職人たちが、宝石を一つひとつ慎重に大理石に嵌め込んだモザイクです。

それでは、ピエトレドゥーレについて、まずはどういうものなのかを紹介しますね。

ピエトレドゥーレの宝石モザイク

ピエトレドゥーレとは、宝石を使ったモザイク技法、またはそのモザイクそのもののことを指します。
大理石の板や壁などに、主に半貴石を埋め込んだものです。

イタリア語でPietra Dura、または複数形でPietre Dureと呼ばれていて「硬い石」と言う意味。

日本ではあまり馴染みがないためか、ピエトラ・デュラ、ピエトレ・ドゥーレ、ピエトル・デュールなどといったさまざまな和訳で呼ばれているようです。

また、象嵌の一種なので、貴石象嵌とも呼ばれています。

高級品オークションを手がける老舗のサザビーズ社によると、ピエトレドゥーレは16世紀末にローマ時代の遺跡の発掘がきっかけで、ルネサンス期に開発されたとのこと。

古代ローマにみられる大理石や硬い石を使ったオプス・セクティーレとして知られるモザイクの技法が転用されて、革新的な技法になったらしいです。

さまざまな色と材質の石を組み合わせて、王侯貴族の宮殿や教会などの床、壁、家具、絵、宝石箱などを装飾。

ローマから始まり、フィレンツェで大ブレイクをして、プラハやフランスなどでも工房が設立されます。

ちなみに、インドのタージマハル廟の有名な宝石モザイクは、イタリア人の宝石職人も参加をして、ピエトレドゥーレを手がけていたそうです。

16世紀末にはじまり、17世紀から18世紀が全盛期でした。

現在ピエトレドゥーレの職人は若干ですが存在していて、現代風に変化しながらも技法は継承されているようです。

フィレンツェのピエトレドゥーレ 宝石のテーブルトップ

フィレンツェの宝石工房Opificio delle Pietre Dure(現在は貴石加工博物館)が17世紀の全盛期に作った宝石のテーブルトップ。

メディチ家から、バルベリー家、そしてフランスのルイ14世へと名家を渡り、今ではフランス国立自然史博物館のコレクションとなっています。



ガラスケースに博物館の別の展示物がかなり反射していたので、テーブルトップの半分くらいを撮影。

見えていない部分も同様のモチーフです。

この鳥や果物が中心のものと、もう一つ草花が中心のものの2枚のテーブルトップがありました。

説明パネルには、気が遠くなるような工程が記されていていました。

デザインを考案して、さまざまな石を入手。

土台の大理石板の表面にデザインを複写して、モザイク石をはめ込む部分をノミとハンマーで削る。

モザイク石をカットして埋め込み、蜜蝋や樹脂の接着剤で貼り付け、表面を磨く。

大まかな作業のみを簡単に記しましたが、一つひとつの作業がとても大変で、何年もかけて、20人もの職人が製作したとのことです。





なんて精緻なのでしょう!

基盤は黒大理石。

モザイクの石片は、ラピスラズリ、カーネリアン、アゲート、珊瑚、ジャスパー、アメジスト、アマゾナイトなど10種類ほどのカラフルな宝石が使われています。



小さな昆虫たちが織りなすモザイクも。
艶やかな一連の真珠は、本物のように感じられます。



一輪の花の構成美はさることながら、一枚一枚の花びらに至るまでこだわったグラデーション。

みずみずしい果実やしおれかけた葉、そして蝶の羽を模した宝石のセレクションが見事です。

モチーフに合う宝石の選定や収集に、大変な手間がかかったそうです。




オウムの首の石のチョイスにも感心。

その目はまるで生きているかのようで、話しかけてきそうなほどリアルです。

プラハのピエトレドゥーレ 風景画

ピエトレドゥーレの愛好家だった神聖ローマ帝国皇帝のルドルフ2世。

フィレンツェからわざわざ宝石工芸家一族をプラハに招いて、カストルッチ工房を設立したのだそうです。



こちらは、17世紀にカストルッチ工房で作られたピエトレドゥーレの風景画。

ニューヨークのメトロポリタン美術館によると、もともとはキャビネットに組み込まれていて、皇帝のコレクションだった可能性が高いとのことです。



アゲートやジャスパーなど豊かな色合いや質感を巧みに活用して、風景を描いた作品です。

アブダビのピエトレドゥーレ シェイク・ザーイド・グランド・モスク

現代のピエトレドゥーレの最大級プロジェクトは、何と言ってもアブダビのシェイク・ザーイド・グランド・モスクではないでしょうか。

アラブ首長国連邦初代大統領のザーイド・ビン・スルターン・アール・ナヒヤーンが建設を始めて、500億円以上、10年以上もの歳月をかけて2007年に完成したモスクです。

旅行レビューサイトのトリップアドバイザーが毎年集計する「トラベラーズチョイスアワード ベスト オブ ザ ベスト」。

その「人気の観光スポット-世界部門」トップ3の常連で、2024年はトップと僅差の2位でした。

大人気のシェイク・ザーイド・グランド・モスクは、世界各国から集められた天然石モザイクの宝庫です。




コートヤードの大規模なモザイク。

白をベースに、色とりどりの大理石で中近東に咲く草花が描かれています。

純白はシェイク・ザーイドがとても好んだ色で、純潔、美徳、平和を象徴する色なのだそうです。



内部も大理石の壁や床に、草花のモザイクがいっぱい。

窓はイスラム美術の伝統的な幾何学模様と自然界のモチーフが巧みに融合。

まるで、夢の中の世界みたいに幻想的ですね。



壁のモザイクは、少し浮き上がっていて立体感があります。

まるで生きた草花が壁に優雅に寄り添っているかのようです。


公式サイトによると、回廊の柱はなんと1096本もあるとのこと。

6角面の柱は、白大理石を基調とした草花のピエトレドゥーレで装飾。

壮麗さと愛らしさが見事に融合していますね。

ラピスラズリやアメジスト、レッドアゲート、真珠母貝などが埋め込まれたピエトレドゥーレ。

完成間近の段階で、現場で彫刻をして、宝石を一つずつ丁寧に嵌め込んでいったのだそうです。

美しい宝石と芸術を絶妙に融合させた職人の技。

今回は、宝石のモザイク「ピエトレドゥーレ」を紹介しました。

それでは、また次回に!